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振り込め詐欺の受け子事件と少年院送致

2021/06/20

振り込め詐欺事件で摘発された20歳未満の少年の摘発人数が近年、急増しています。

特殊詐欺による少年の検挙人員についてみると、令和元年は前年比193人(23.8%)減の619人でしたが、特殊詐欺による検挙人員全体の21.6%を占めています(令和元年犯罪白書)。

そして、振り込め詐欺は実務上、逮捕をはじめ少年院送致の可能性が高い類型といえます。

捜査機関は、友人や先輩から誘われ犯行グループに加わる実態が見受けられるとして、非行少年の周辺関係者について情報収集を進めるなどして逮捕等に踏み切る事案が多いです。

振り込め詐欺とは、電話などで相手をだまし、金銭の振り込みを要求する詐欺のことを言います。金融機関を通じてお金を「振り込ませる」ものや、犯人が現金やキャッシュカードを直接被害者の自宅などに取りに来る「現金受取型」や、宅配便などを利用して犯人が指定した宛先に配達させる「現金送付型」などがあります。

特殊詐欺の4つの型(①オレオレ詐欺、②架空請求詐欺、③融資保証金詐欺、④還付金詐欺)を総称して「振り込め詐欺」と呼びます。

  • オレオレ詐欺:親族を装うなどして電話をかけ、現金が至急必要であるかのように信じ込ませ、被害者に指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺
  • 架空請求詐欺:架空請求の文書を送付して、指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺
  • 融資保証詐欺:融資を受けるための保証金の名目で、指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺
  • 還付金詐欺税務署や社会保険庁等を語って、税金や利用料金等の還付等に必要な手続きを装って、電話で指示しながら被害者にATMを操作させて、口座間送金により現金を騙し取る詐欺

少年事件と振り込め詐欺

少年事件では、振り込め詐欺の中でもオレオレ詐欺に関する事件が多く、架空請求詐欺等の手足として利用される少年が多いです。特に、振り込め詐欺の受け子として利用されることが多いです。

少年は具体的な手口や内容について知らされることなく、高額な報酬をあげるから、荷物や現金を被害者から受け取るように勧誘されます。お金欲しさに、そのような誘いにのってしまい、逮捕されてしまいます。

少年からすると、ただ荷物を受け取るように言われただけで詐欺とは思わなかったというような弁解をすることが考えられます。

しかし、近時、振り込め詐欺について、判例が連続して出ており、そのような弁解は認められない傾向にあります。

このような判例が出てきた背景には、

  • 犯罪に関わる者同士の間でも情報を共有しないで役割を分担する方法が主流になってきたことへの対策
  • 共犯者間で情報を遮断して、自分の役割のみを認識して犯行を行う事件が増えてきたことへの対策
  • 捜査段階で黙秘戦術がとられるようになったことへの対応

などが考えられます。

参考判例①最高裁平成30年12月11日【Westlaw掲載判例】

(事例)

異なる名宛人になりすまして荷物を受領する行為を多数回繰り返した事例

(裁判の要旨)

マンションの空室に宅配便で現金を送付させてだまし取る特殊詐欺において、被告人が指示を受けてマンションの空室に赴き、そこに配達される荷物を名宛人になりすまして受け取り、回収役に渡すなどしていること、被告人は同様の受領行為を多数回繰り返して報酬等を受け取っており、犯罪行為に加担していると認識していたこと、詐欺の可能性があるとの認識が排除されたことをうかがわせる事情は見当たらないことなどの本件事実関係の下では、被告人には、詐欺の故意に欠けるところはなく共犯者らとの共謀も認められる。

参考判例②最高裁平成30年12月14日【Westlaw掲載判例】
(事例)
 
詐欺の被害者が送付した荷物を依頼を受けて名宛人になりすまして荷物を受け取り、直ちに回収役に引き渡す仕事を繰り返し、多額の報酬を受け取った者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例
 
(裁判の要旨)
 
宅配便で現金を送付させてだまし取る特殊詐欺において、被告人が自宅に配達される荷物を依頼を受けて名宛人になりすまして受け取り、直ちに回収役に渡す仕事を複数回繰り返して多額の報酬を受領していること、被告人は荷物の中身が詐欺の被害品である可能性を認識しており、現金とは思わなかったなどと述べるのみで詐欺の可能性があるとの認識が排除されたことをうかがわせる事情は見当たらないことなどの本件事実関係(判文参照)の下では、被告人には、詐欺の故意に欠けるところはなく、共犯者らとの共謀も認められる。
考察
上記のような判例を考察すると、「犯罪に関わる荷物を受け取るという認識があって、それが詐欺ではないと信じる根拠がなければ、詐欺の故意が推認できる」、すなわち、詐欺罪が成立することと解されます。つまり、オレオレ詐欺の受け子になった場合、詐欺罪が成立する範囲が広く、自分は詐欺とは知らなかったという弁解は簡単には通じないこととなります。
 
そのため,簡単にお金が儲かるような上手い話しに飛びつかないという少年自身の意志の強さやご家族や学校からの指導も大切です。

少年院送致の可能性

詐欺罪のなかでも振り込め詐欺・オレオレ詐欺のような組織的な犯罪は逮捕・勾留につながりやすく、さらに、少年院送致の可能性が高い類型といえます。

しかし、少年の役割や関与の程度、詐欺事件に関与していた期間・回数・少年の事件への認識の程度、反省やご家族の今後の監督の在り方等、被害回復の程度等、少年にとって有利な事情があれば、それらを積極的に主張してゆくことにより、少年院等の回避につながりやすくなります。

実際、オレオレ詐欺においては少年院送致が妥当かどうか、悩ましいケースも多く、事件化した場合、早い段階から対応することが重要です。

少年院送致を避けるために

弁護士上村武史

少年院の可能性を下げるためには、

  • 早期の段階から身柄解放活動に着手する
  • 被害回復の方法について考える
  • 少年の交友関係をはじめ環境を調整する

等の活動が重要となります。

各少年の関与の程度や認識の点で少年にとって有利な事情があればそれらを主張してゆくことも重要となります。

少年事件・少年犯罪はスピードが重要です。早めの対策が有益です。

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